イラクサ(ウーティカ・ディオイカ:Urtica dioica)は、古くから薬草医学の中で重要な役割をはたしてきました。
古代エジプトでは、イラクサを関節炎や腰痛の治療に使用していた他、古代ローマの兵士は、イラクサを体に擦り付けて暖を取ったりしていたとされています。(参考)
ラテン語の「燃やす」という意味のウロ(Uro)に由来する、ウーティカ・ディオイカ(Urtica dioica)という学名で呼ばれますが、これは、その葉に触れると一時的に火傷をした時のような感覚を受けることによります。
その葉には、毛髪のような構造物がついており、その部分が皮膚に触れると、突き刺すような感覚と痒み、赤みと腫れなどの症状を来たします。(参考)
しかし、サプリメントなどに加工されたり、乾燥・冷凍乾燥・調理などの加工を減ることで、安全に摂取することが可能になります。研究では、イラクサの多くの健康への効能が報告されています。
この記事では、6つの科学的データに基づいた、イラクサの効能について取りあげようと思います。
1. イラクサに含まれる多くの栄養素
イラクサの葉と根は、以下に挙げるような多くの栄養素の供給源となります。(参考)
- ビタミン: ビタミンA・C・K・Bなど
- ミネラル: カルシウム・鉄、マグネシウム、リン、カリウム、ナトリウム
- 脂質: リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸
- アミノ酸: 全ての必須アミノ酸
- ポリフェノール: ケンプフェロール、ケルセチン、カフェイック酸、クマリン、その他のフラボノイド
- 色素: βカロテン、ルテイン、ルテオキサンチン、カロテノイド
さらに、これらのうちの多くの栄養素は、体内で抗酸化物質としても機能をします。
抗酸化物質は、細胞を遊離ラジカルから守る分子のことです。遊離ラジカルによって起きる障害は、加齢や、癌を含めた他の有害な疾患に関連しています。(参考)
研究では、イラクサ抽出物が、血中の抗酸化物質を増加させると報告されています。(参考1, 参考2)
Point:イラクサは多くのビタミン、ミネラル、脂肪酸、アミノ酸、ポリフェノール、色素を含み、これらの多くは抗酸化物質として体内で機能します。
2. イラクサの炎症軽減作用
炎症とは人の体が、創部を直したり、感染と戦ったりするための重要な仕組みです。
しかし、慢性的な炎症反応は人の体に、顕著な害を与えることには注意が必要でしょう。(参考)
イラクサには、炎症反応を軽減させる可能性がある複数の化合物が含まれています。
動物の研究と、試験管内の基礎研究で、イラクサが複数の炎症ホルモンの産生を阻害して、炎症を減少させることが報告されています。(参考1, 参考2)
人を対象とした研究でも、関節炎のような炎症性の疾患が、イラクサの局所への塗布や、イラクサの経口摂取で軽減したとしています。
例えば、27名の被験者を対象にした研究で、関節炎が起きている部位にイラクサを局所的に塗布したところ、有意に疼痛が軽減したとされています。(参考)
他の研究でも、イラクサ抽出液を含むサプリメントの摂取が、有意に関節炎の疼痛を軽減したと報告されています。
さらに、被験者はイラクサを使用することで疼痛が軽減し、必要とする鎮痛薬の量が減ったとも言われています。(参考)
そうは言っても、イラクサの摂取を炎症の治療に推奨できるほどには、確定的なデータがまだありません。今後の、人を対象とした追加の研究の結果を待つ必要があるでしょう。
Point:イラクサは炎症を軽減させる効果がある可能性があり、関節炎などの炎症性の疾患の治療に役立つかもしれませんが、この効能は確定的ではなく、今後の追加での研究結果の確認が必要です。
3. 前立腺肥大に対する効能
51才以上の男性の半数以上が、前立腺肥大症を持っていると考えられています。(参考)
前立腺肥大は、一般的には良性前立腺過形成(BPH)などとも呼ばれます。現時点では、何が前立腺肥大症の原因となるのかはわかっていませんが、排尿時の著明な不快感の原因となることが知られています。
興味深いことに、いくつかの研究はイラクサを使うことがBPHの治療に役立つ可能性があることを示唆しています。
動物を対象とした研究では、イラクサがテストステロンをより強力な男性ホルモンである、ジヒドロテストステロンへの変換を妨げる効果があると報告されています。(参考)
このテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を阻害することが、前立腺のサイズ減少につながります。(参考)
前立腺肥大症を持つ患者さんを対象にした研究では、イラクサの抽出液が短期・長期の排尿問題を、特に副作用もなく改善したとされています。(参考1, 参考2)
しかし、従来の内服薬などに比較して、イラクサの内服がどの程度優れているのかについてはデータがありません。
Point:イラクサには、前立腺のサイズを減少や、前立腺肥大症による症状の軽減などの効果があるかもしれません。
4. 花粉症への効能
花粉症は、鼻の粘膜に炎症が起きるアレルギーの1種です。
イラクサには、花粉症の症状軽減効果があると期待されています。
試験管内の実験では、イラクサの抽出液が、季節性アレルギーを惹起する炎症反応を抑制することができたと報告しています。(参考)
これは、イラクサの成分の、ヒスタミン受容体を阻害して、免疫細胞のアレルギー反応の原因となる化学物質放出を防ぐ効果によると考えられています。(参考)
しかし、人を対象とした研究では、花粉症症状に対して、イラクサの摂取はプラセボの摂取に比べて、ほとんど効果がないか、あってもごく僅かな差しかない、とされていることには注意が必要でしょう。(参考1, 参考2)
イラクサには、花粉症に対する天然の治療薬としての期待がかかっていますが、この効果は確定的ではなく、今後もより長期にわたる、人を対象とした研究の継続が必要でしょう。
Point:イラクサは花粉症症状を軽減するかもしれません。しかし、ある研究ではイラクサの摂取がプラセボの摂取と効果に差がないと報告されています。花粉症に対するイラクサの効能については、今後も追加での研究が必要でしょう。
5. 血圧低下効果
おおよそ、3人に1人のアメリカ成人に高血圧症があると考えられています。(参考)
世界的に見ても主要な死亡原因である心疾患や脳卒中のリスクを上昇させるため、高血圧は非常に深刻な健康問題です。(参考)
伝統的に、イラクサは高血圧の治療にも利用されてきました。(参考)
動物を対象とした研究や、試験管内の実験を元にしたデータによると、イラクサは複数の機序で血圧を下げる効果があると考えられます。
考えられる機序の1つは、イラクサが、血管拡張作用のある一酸化窒素の産生を促進するというものです。一酸化炭素のような血管拡張因子は、血管の筋肉を弛緩させて拡張を促します。(参考1, 参考2)
さらにイラクサには、心臓を弛緩させて心収縮力を低下させる、カルシウムチャネルブロッカーのような作用をする可能性のある化合物を含んでいます。(参考1, 参考2)
動物を対象とした研究では、イラクサは心臓を抗酸化によって保護しながら、血圧を低下させる効果を発揮したとされています。(参考1, 参考2)
しかし、イラクサの血圧低下作用が人においても認められるのかについては、はっきりしていません。高血圧に対してイラクサを使用するようになる前に、人を対象にした追加での研究が必要でしょう。
Point:イラクサは、血管を弛緩させたり、心臓の収縮力を抑制したりすることで、血圧を低下させる効果があるかもしれません。しかし、これらの効能は確定的ではなく、今後の人を対象とした研究の結果が待たれます。
6. 血糖コントロールへの効能
人と動物を対象とした研究のそれぞれで、イラクサの摂取が血糖の低下につながったと報告されています。(参考1, 参考2, 参考3, 参考4, 参考5)
実際、イラクサはインスリンによく似た効果を示す化合物を含んでいることが知られています。(参考)
46名の被験者を対象にした研究では、毎日3回500mgのイラクサ抽出液を3ヶ月に渡って投与したところ、プラセボを摂取していた群に比較して、有意に血糖が低下したとされています。(参考)
これらは期待の持てる結果ですが、現時点ではイラクサの血糖に関する、人を対象とした研究はまだ少なすぎる状態です。今後の追加での研究が必要でしょう。
Point:イラクサには、人の血糖を下げる効果があるかもしれませんが、この効能のために積極的に使用されるようになる前には、さらに追加での研究が必要でしょう。
その他の可能性のある効能
イラクサは、以下のような健康への効能があるかもしれません。
- 出血抑制: イラクサ抽出液を含む薬剤は、手術後などの過剰な出血を抑制する効果が認められています。(参考1, 参考2)
- 肝臓の健康: イラクサは、毒素、重金属、炎症などによる肝臓への障害を防ぐかもしれません。(参考1, 参考2)
- 天然の利尿作用: イラクサは、体から過剰な水分や塩分を取り除き、一時的に血圧を低下させる効果があるかもしれません。しかし、これらの期待される効能のほとんどは動物実験のデータに基づいていることには注意が必要でしょう。(参考1, 参考2)
- 創傷や火傷の治癒: イラクサクリームを局所に塗布することで、火傷を含む創部の治癒を促す効果が期待されています。(参考1, 参考2, 参考3)3
Point:イラクサには、出血傾向の抑制、肝臓の健康増進、創傷治癒など、他の健康への効能が期待されています。
可能性のある副作用
乾燥、もしくは調理されたイラクサを摂取することは、一般的には安全です。副作用は、あるとしてもごくわずかであると考えられています。
しかし、生のイラクサの葉を扱う時には、葉についている毛髪様のトゲが皮膚を傷つける可能性があるので注意が必要です。
これらのトゲは、下記に挙げる様な化学物質を皮膚に注入します。(参考1、参考2)
- アセチルコリン
- ヒスタミン
- セロトニン
- ロイトコリエン
- 葉酸
これらの化合物は、皮疹、瘤、蕁麻疹、痒みなどの原因となり得ます。
稀なケースでは、重篤なアレルギー反応を起こす人もおり、命に関わるケースも報告されています。
しかし、これらの化学物質は、イラクサの葉が加工されるとともに減少し、乾燥イラクサや調理されたイラクサを摂取した場合には、特に口や胃などに刺激感はありません。(参考)
妊娠中の女性では、子宮収縮とそれに伴う流産のリスクが上昇するため、イラクサの葉の摂取は避けた方が良いでしょう。(参考)
また、以下のような薬剤を摂取している場合にも、イラクサのサプリメントを摂取する前に、医療機関で相談をしましょう。
- 血液抗凝固薬
- 降圧薬
- 利尿薬
- 糖尿病薬
- リチウム
イラクサの葉はこれらの薬剤と相互作用を起こす可能性があります。例えば、イラクサの利尿効果がすでに摂取している利尿薬の効果を強めて、脱水などを起こす危険性もあります。
Point:乾燥したイラクサや調理されたイラクサは、経口摂取してもほとんどの人にとっては安全でしょう。しかし、生の葉は口や胃に刺激を与えるので摂取してはいけません。
どのようにして使用するか?
イラクサは、日々の献立に簡単に加えることができます。
多くの健康食品専門店で購入できる他、自分で育てることも可能です。
購入する場合は、乾燥・冷凍乾燥したイラクサの葉や、イラクサのサプリメントカプセル、チンキ、クリームなどが手に入ります。また、イラクサの軟膏は、しばしば変形性関節症にも使用されます。
乾燥したイラクサの葉や花は、薬草茶を作るために水に浸して調理される他、イラクサの葉、茎、根などは調理されてスープ、シチュー、スムージー、炒め物などに使用されます。しかし、刺激が強いので、生のままでのイラクサの摂取は避けた方が良いと言われています。
現時点では、イラクサに関して推奨される摂取用量などはありません。
ただし、研究などに基づいて、特定の疾患に対しては以下のような用量が推奨されることがあります。(参考1, 参考2)
- 前立腺肥大: 1日360mgのイラクサの根の抽出液
- アレルギー:1日600mgの冷凍乾燥した葉
イラクサのサプリメントを購入するときには、医療機関で医師と相談した上で、使用説明書の用法用量を守って使用しましょう。
Point:イラクサは多目的に使用されるハーブです。イラクサは、シチューやスープに使われたり、薬草として煮出してお茶にしたり、軟膏として塗布、サプリメントとして摂取されます。
まとめ
イラクサは、欧米の薬草医学の中でもよく使用される、栄養価も高い植物です。
研究では、イラクサに炎症を軽減させたり、花粉症の症状軽減、血圧や血糖の改善などの効果がある可能性が示唆されています。
生のイラクサは刺激感がある一方で、調理されたり、乾燥や冷凍乾燥などの加工を経たイラクサは、安全に摂取することができます。
興味があれば、今後の食卓にこのイラクサを加えてみてはどうでしょうか?
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