睡眠不足が体に与える影響
あまりよく眠れなかった翌朝に「疲れが残っている」「気分が乗らない」「元気が出ない」などと感じたことがあると思います。一般的な睡眠時間は7〜9時間と言われており、睡眠不足が体に与える長期間にわたる影響は現実に起こっています。
睡眠不足に陥ると思考能力の鈍りによる注意散漫や体重の増加、免疫システムが低下するなど、数々の健康上の問題があると科学的にも証明されています。
では、睡眠不足になる原因と、それが体の機能やシステムにどのような影響を与えるのか見ていきましょう。
睡眠不足の原因
簡単に言えば、睡眠不足は睡眠が不足している状態、または睡眠の質が低下している状態のことを指します。睡眠時間が7時間に満たない生活を続けた場合、体全体に影響が出るような健康問題が発生する恐れがあります。睡眠不足は表面化していない睡眠障害が原因の場合もあります。
体はベストの状態を保つため、酸素や食べ物を必要としているのと同じように睡眠を必要としています。睡眠中は体が自身を回復させ、体内物質のバランスを整えます。また、脳が新たに思考の連結を作り、記憶の維持を助けます。
睡眠が不足していると脳と体のシステムは正常に働きません。また、生活の質も大きく下がります。
2010年の研究では夜の睡眠が大きく不足していると若くして死亡するリスクが高まることが分かりました。(参考)
睡眠不足の分かりやすい兆候は以下の通りです。
- 過度の眠気
- あくびの頻度が高い
- イライラ
- 日中の疲労感
カフェインなどの刺激物では体が必要としている睡眠の量をカバーできません。事実、刺激物は夜眠りにくくする作用があるので、睡眠不足を悪化させる可能性があります。
反対に睡眠不足からくる疲れを取るために、日中カフェインを摂取することによって夜は眠れず、不眠症になると言うサイクルを引き起こす可能性があります。
慢性の睡眠不足は体の内部システムの動きの邪魔をして、上記の兆候や症状を引き起こす以上の悪影響を体に及ぼす可能性があります。
中枢神経系への影響
中枢神経系は体の全身に情報を送る中心の部分です。睡眠はこの神経系が正しく機能するために必要な活動です。しかし、慢性の不眠症は体が情報の伝達や処理をするのを中断させる可能性があります。
睡眠中に脳内の神経細胞の間に経路が作られ、その日に得た新しい情報を脳が覚えておくのを助ける働きをします。睡眠不足は脳を疲れている状態にしてしまうので、脳がきちんと役割を果たせない状況になってしまいます。
さらに、集中することや新しいことを学ぶのが難しくなります。また、睡眠不足によって、体が発する信号が遅れてしまうことがあり、体内の連携が崩れ、事故にあう危険が高まる可能性があります。
睡眠不足はまた知能や情緒の状態にも悪影響を及ぼします。いつもよりも短気になったり、気分が急に変化したりする傾向があります。また、判断力や創造力が鈍ったりすることもあります。
睡眠不足が長く続いた場合、実際に無いものが見えたり、聞こえたりする幻覚症状が現れる可能性があります。睡眠不足はまた双極性障害ある人に躁病を引き起こす可能性があります。その他の起こりうる精神面での危険な症状は以下の通りです。
- 衝動的な行動
- 不安感
- 鬱
- 偏執病(へんしゅうびょう)
- 自殺念慮
また、日中にマイクロスリープに陥ってしまうこともあります。マイクロスリープとは、無意識に数秒間睡眠状態に陥ることです。
マイクロスリープはコントロールできるものではなく、車の運転中に起こると大変危険です。また、仕事で重機を扱っている場合は怪我に繋がるリスクが高くなります。
免疫システムへの影響
寝ている間に体の免疫システムは、抗体やサイトカインのような体を守り感染を防御する物質を作り出しています。体は体外から入り込もうとする細菌やウイルスと戦うためにこれらの物質を使います。
サイトカインはまた、睡眠を助ける働きがあります。これにより体の免疫システムはより効率良く体を病気から守ることができます。
睡眠不足は体の免疫システムの力が強くなるのを妨げます。十分な睡眠がとれていないと、細菌やウイルスの侵入を許してしまったり、病気に罹った時に回復に時間がかかってしまったりすることがあります。
長い期間に及ぶ睡眠不足は糖尿病や心臓疾患などの慢性的な病気に罹るリスクを高めます。
呼吸器系への影響
睡眠と呼吸器系は相互関係にあります。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は夜寝ている間に起こる呼吸障害で、睡眠を妨げたり、睡眠の質を落としたりします。
寝ている途中で起きてしまうので、睡眠不足に繋がり、そのせいで風邪やインフルエンザなどに罹りやすくなります。また現在慢性の肺疾患など、呼吸器系の病気に罹っているとしたら、睡眠不足はそれを悪化させる可能性があります。
消化器系への影響
食べ物の食べ過ぎで運動しないのと同じように、睡眠不足は体重の増加や肥満のリスクを高めます。睡眠はレプチンとグレリンと呼ばれる空腹感と満腹感をコントロールする二つのホルモンのレベルに影響を与えます。
レプチンは脳に満腹感を伝えます。睡眠が不足しているとレプチンの値が下がり、食欲を刺激するグレリンの値が上がります。睡眠不足によって起こるこの二つのホルモンの値の変化が、夜に間食をしてしまったり、夜になると特に食べ過ぎてしまったりする原因になります。
また、睡眠不足の時は疲労感から運動をしたくなくなります。運動の機会が減ると十分なカロリーの消費ができず、さらに筋肉量が増えないので、その結果、体重が増えます。
また、睡眠不足により食事をした後のインスリンの分泌量が減少します。インスリンには血糖値を下げる働きがあります。
睡眠不足は体のブドウ糖に対する耐久性を下げることになり、インスリン抵抗性とも関連しています。このようなことから、睡眠不足は糖尿病や肥満に繋がります。
心臓血管系への影響
睡眠は心臓と血管を健康に保つ働きに影響を与えます。たとえば、血糖値、血圧、そして炎症レベルなどです。また体が血管や心臓を治癒したり、回復させたりする際の重要な役割を担っています。
睡眠が不足している人は、より循環器疾患にかかるリスクが高まります。ある分析結果では、不眠症と心臓発作や脳卒中のリスクの増加の関係性が指摘されています。
内分泌系への影響
ホルモンの生産は睡眠と関係しています。テストステロンを生産するには少なくとも3時間以上の継続した睡眠が必要です。これは就寝後最初にレム睡眠に入る時間に相当します。夜通し起きていることはホルモンの生産にも影響を与える可能性があります。
睡眠不足は子供や青年期のホルモンの成長にも影響を与える可能性があります。これらのホルモンは体の成長機能に加えて、体が筋肉の量を増やし、細胞や組織を回復させるのを助ける働きがあります。
脳下垂体は毎日成長ホルモンを分泌します。さらに、適量の睡眠と運動もこのホルモンの分泌を助けます。
睡眠不足の解消法
もっとも基本的な睡眠不足の解消法は、適切な睡眠時間と言われている7~9時間の睡眠を毎晩とることです。
この解消法は睡眠不足が数週間以上続いている場合、口で言うよりも難しいかもしれません。睡眠不足の状態がこの段階より進んでいる場合は、医師や専門家の診断や睡眠障害の治療が必要になるかもしれません。
睡眠障害は一度罹ると夜質の良い睡眠をとるのが難しくなります。また、上に記したような睡眠不足が原因の病気や症状が起こるリスクが高まります。
睡眠障害には主に以下のような種類があります。
- 閉塞性睡眠時無呼吸
- ナルコレプシー(睡眠発作)
- レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
- 不眠症
- 概日リズム睡眠障害
上記のような病気と診断するには、医師は睡眠検査を行う必要があるかもしれません。この検査は通常、専門の睡眠センターで行われますが、自宅で睡眠の質を測る方法もあります。
もし、睡眠障害と診断された場合、質の良い睡眠を日常的に得るための治療として、薬や睡眠時に気道を開けておくための道具(閉塞性睡眠時無呼吸の場合)が使われることがあります。
睡眠不足の予防
睡眠不足を防ぐための一番良い方法は適切な量の睡眠をきちんとることです。自分に合った年齢層の推奨ガイドラインに沿った睡眠時間を確保することです。通常18歳~64歳は7時間~9時間と言われています。
その他の方法として、健康的な睡眠を取り戻すための以下の項目を試してみましょう。
- 昼寝の時間を制限する(または昼寝をしない)
- 昼以降、または就寝時間の数時間前にはカフェインを摂取しない
- 毎晩同じ時間に寝る
- 毎朝同じ時間に起きる
- 週末や休暇中も平日と同じ時間に寝るようにする
- 寝る一時間前は読書、瞑想、または入浴などをして体をリラックスさせるようにする
- 寝る数時間前は胃に負担がかかる料理は食べないようにする
- 寝る前の電気機器の使用は避ける
- 夜寝る前の数時間は避けて、日常的に運動をする
- アルコールの摂取量を減らす
もし、夜寝ることが困難な状態が続き、日中に疲れが出る場合は、かかりつけ医に相談してください。睡眠を邪魔しているかもしれない、体の中に潜む原因を検査して突き止めることができます。
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