授乳中にすべきこと
母乳は赤ちゃんにとって成長のためだけでなく、健康にも非常に良いことを知っていましたか。
母乳によって、心臓病や糖尿病などの病気にかかるリスクを減らすことができるかもしれません。またストレスを軽減し、赤ちゃんとのつながりをより強く感じられるようになるかもしれません。
さらに母乳には赤ちゃんの発育に不可欠な栄養と保護成分がたっぷり含まれています。母乳が乳児栄養の「源」として知られ、金の泉とも呼ばれています。
液体の金を生産するには多くのエネルギーを必要とし、これらの需要を満たすために多くの栄養素が必要です。
母乳の量を増やすには、栄養価の高い食品を選ぶことが非常に重要です。加えて産後に健康的な食事を摂取することは、精神的にも肉体的に良い効果があります。
この記事では、授乳中に健康的な食事をするために知っておくべきことをすべて説明します。
母乳について知る
授乳中に健康的で栄養価の高い食事をとることがなぜ重要なのかと疑問に思うかもしれません。
赤ちゃんが成長するために必要なすべての栄養素を確実に摂取できるようにするには健康的な食事が必要です。
母乳にはビタミンDを除いて、生後6ヶ月までの赤ちゃんの発育に必要なものがすべて含まれています。
しかし全体的な食事で十分な栄養が得られないと、母乳の質と自分自身の健康の両方に影響を及ぼす可能性があります。
母乳は87%が水分、3.8%が脂肪、1%がタンパク質、7%が炭水化物で構成されており、60~75kcal/100mlを供給します。
粉ミルクと違って母乳のカロリーや成分はさまざまです。母乳は赤ちゃんのニーズに合わせて、授乳のたびに変化します。
授乳が始まると母乳はより水っぽくなり、通常は赤ちゃんののどの渇きを和らげます。後から出てくる母乳 (後乳) は、より濃厚で脂肪分が多く、栄養価も高いのです。
2005年のある研究によると、この後乳には最初の母乳の2~3倍の脂肪が含まれている可能性があり、約28g当たりのカロリーは7~11倍多いと報告されています。そのため栄養価の高い母乳を得るためには、赤ちゃんが片方の乳房の母乳を飲み切ってから、もう片方を飲むということが必要です。
要約: 母乳には生後6ヶ月までに、ビタミンDを除いて赤ちゃんが必要とするものがすべて含まれています。また母乳に含まれる脂肪やカロリーは、授乳中にも赤ちゃんのニーズに合わせて時間とともに変化します。
栄養価の高い食品を摂る
赤ちゃんに母乳を与えるとき、母親の空腹レベルが常に高いのには理由があります。母乳を作ることは体に負担がかかり、全体的なカロリーを余分に必要とするとともに、特定の栄養素をより多く必要とします。
実際、母乳育児中に必要なエネルギー量は、1日あたり約500kcal増加すると推定されています。タンパク質、ビタミンD、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンB12、セレン、亜鉛などの特定の栄養素の必要性も高まります。
そのため栄養価の高いさまざまな食品を食べることが、本人と赤ちゃんの健康のために非常に重要です。上記の栄養素を豊富に含む食品を選ぶことで、あなたとその子が必要とするすべての主要栄養素と微量栄養素を手に入れることができます。
ここでは母乳育児の際に摂取すべき栄養価の高いおいしい食べ物をいくつか紹介します。
- 魚介:サーモン、海藻、貝類、イワシ
- 肉:鶏肉、牛肉、子羊、豚肉、内臓肉(肝臓など)
- 青果物:ベリー、トマト、ピーマン、キャベツ、ケール、ニンニク、ブロッコリー
- ナッツ・種子:アーモンド、くるみ、チアシード、麻の種子、亜麻仁(アマニ)
- ヘルシーな脂肪:アボカド、オリーブオイル、ココナッツ、卵、全脂肪ヨーグルト
- 食物繊維の豊富なデンプン:ジャガイモ、バターナッツのカボチャ、サツマイモ、豆、レンズ豆、オート麦、キノア、ソバ
- その他:豆腐、ダークチョコレート、キムチ、ザワークラウト
たまには大好きな食べ物を食べてよいでしょう、ただファーストフードや糖分の多い朝食シリアルなどの加工食品の摂取量はできるだけ減らしましょう。好きなものと栄養価の高いものを合わせて調理できるとより良いです。
例えば、朝食用シリアルで一日を始めるのに慣れているなら、ベリー類をトッピングしたオーツ麦、無糖のココナッツ、そしてナッツバターをたっぷり入れた食べ物にしてみてください。
要約:母乳を与えている間に必要とされるカロリーや栄養素の増加に対応するために、栄養価の高い食品を摂りましょう
2つのグループの栄養素を摂って母乳の量を調整する
では、なぜ栄養価の高い食品を食べることが母乳育児に不可欠なのか、その基本的なポイントがわかったところで、なぜ特定のビタミンやミネラルに特別な注意を払うことが重要なのか、もう少し深く掘り下げてみましょう。
母乳に含まれる栄養素は、母乳にどの程度分泌されているかによって2つのグループに分けられます。
グループ1の栄養素とそれを含む食品
- ビタミンB1 (チアミン) :魚、豚肉、種子、ナッツ、豆類
- ビタミンB2 (リボフラビン) :チーズ、アーモンド、ナッツ、赤身、脂っこい魚、卵
- ビタミンB6:ひよこ豆、ナッツ、魚、鶏肉、じゃがいも、バナナ、ドライフルーツ
- ビタミンB12:貝類、レバー、ヨーグルト、脂身、栄養酵母、卵、カニ、エビ
- コリン:卵、牛レバー、鶏レバー、魚、ピーナッツ
- ビタミンA:サツマイモ、ニンジン、緑葉野菜、内臓肉、卵
- ビタミンD:タラ肝油、脂っこい魚、キノコ、栄養強化食品
- セレン:ブラジルナッツ、魚介類、七面鳥、全粒小麦、種子
- ヨウ素:海苔、タラ、牛乳、ヨウ素塩
グループ2の栄養素とそれを含む食品
- 葉酸:豆、レンズ豆、葉野菜、アスパラガス、アボカド
- カルシウム:牛乳、ヨーグルト、チーズ、葉物野菜、豆類
- 鉄:赤身、豚肉、鶏肉、魚介類、豆類、青菜、ドライフルーツ
- 銅:貝類、全粒穀物、ナッツ類、豆類、内臓肉、ジャガイモ
- 亜鉛:カキ、赤身肉、鶏肉、豆類、ナッツ類、乳製品
グループ1の栄養素が不足していると、母乳に分泌されにくくなります。ですからこれらの栄養素を補うことで、母乳中の濃度を高め、赤ちゃんの健康を高めることができます。(妊娠中のビタミン剤について疑問があれば医師に相談しましょう。)
一方、母乳中のグループ2の栄養素の濃度は、お母さんがどれだけ摂取するかに左右されないため、栄養を補っても母乳の栄養素の濃度は上がりません。そうであっても、これらは栄養貯蔵を補充することによって母体の健康を改善することができます。食品からの摂取量が少なければ、体内の骨や組織に蓄えられているこれらの栄養素を母乳に分泌します。
つまり、グループ1の栄養素を十分に摂取することは母親にとっても赤ちゃんにとっても重要ですが、グループ2の栄養素を十分に摂取することは母親にとって重要です。
赤ちゃんはいつでも母乳を適量を摂取することができます。しかし母親は食事から十分な量を摂取しなければ、体に蓄えられているものは枯渇してしまいます。欠乏を防ぐために、これらの栄養素は食事やサプリメントから摂取する必要があります。
要約:グループ1とグループ2の両方の栄養素を十分に摂取することは、あなたと赤ちゃんの健康にとって不可欠です。母乳中のグループ1の栄養素の濃度は母体レベルに影響されますが、グループ2の栄養素の濃度は影響されません。
サプリメントを摂取する
健康的な食事は母乳育児中の栄養を考える上で最も重要な要素ですが、特定のサプリメントを摂取することが特定のビタミンやミネラルの貯蔵量を補充するのに役立つことは間違いありません。
母親の特定の栄養素の摂取量が少ないのには、適切な食べ物を食べていないことや、母乳のエネルギー需要が増加していることなどいくつかの理由があります。
サプリメントを摂取することで、重要な栄養素の摂取量を増やすことができます。しかしサプリメントを選ぶ際には、注意深く選ぶことが重要です。多くのサプリメントには母乳で育てている母親にとって安全ではないハーブやその他の添加物が含まれているためです。
私たちは母乳育児をしている母親と、産後の回復全般を促進するためのサプリメントのリストをまとめました。NSF(米国の製品試験機関)やUSP(米国薬局方)などの第三者機関によるテストを受けた、信頼できるブランドの製品を必ず購入してください。
マルチビタミン
マルチビタミンは、重要なビタミンやミネラルの摂取量を増やすのに最適です。
出産後に女性がビタミンやミネラルを不足することはよくあることです。そのため、特に食事だけでは十分なビタミンやミネラルを摂取できないと思う場合は、毎日マルチビタミン剤を飲むことをお勧めします。
ビタミンB12
ビタミンB12は非常に重要な水溶性ビタミンで、母乳育児中の赤ちゃんの健康とあなた自身の健康に不可欠です。
さらに多くの女性、特に主に植物性食品を摂取している女性、胃バイパス手術を受けたことのある女性、特定の薬(酸逆流薬など)を服用している女性は、すでにB12値が低いリスクが高くなっています。
これらのカテゴリーのいずれかに当てはまる場合や、魚、肉、卵、栄養強化食品などのB12を多く含む食品を十分に食べていないと感じる場合は、B-complexまたはB12サプリメントを摂取することをお勧めします。
質の高い総合ビタミン剤と妊婦用ビタミン剤には、必要量を満たすのに十分な量のB12が含まれていることを覚えておいてください。
オメガ3
オメガ3脂肪が最近大流行していますが、それには理由があります。これらの脂肪はもともと脂肪の多い魚や藻類に含まれており、母体と胎児の健康に不可欠な役割を果たしています。
例えばオメガ3脂肪は赤ちゃんの神経系、皮膚、目の発達に重要です。またこの重要な脂肪の母乳中の濃度は、摂取量に大きく左右されます。
さらにある調査会社は、オメガ3脂肪の一種であるDHAを多く含む母乳を与えられた赤ちゃんの方が、視力と神経発達の結果が良いこと発表しました。
オメガ3脂肪の母乳濃度は、これらの重要な脂肪の摂取を反映するので、十分に得ることが不可欠です。授乳中のお母さんには、DHAと、同じくオメガ3脂肪の一種であるEPAを1日250~375mg摂取することをお勧めします。
227~340gの魚、特にサーモンやイワシのような脂肪の多い魚を食べることで推奨レベルに達します。また魚油やオキアミ油のサプリメントを取ることは、毎日の足りない栄養素の量をカバーできます。
ビタミンD
ビタミンDは、脂肪分の多い魚、魚の肝油、栄養強化食品など、ごく一部の食品にしか含まれていません。肌の色や住んでいる場所など、さまざまな要因に左右されますが日光にさらされたときにも体から出てきます。
この栄養素は身体において多くの重要な役割を果たし、免疫機能と骨の健康に不可欠です。ビタミンDは、体が日光にさらされる時間が限られている場合、母乳中に少量しか含まれないということがわかっています。
そのため米国小児科学会(AAP)によると、母乳で育てられている乳児や、人工乳の消費量が1日1リットル未満の乳児には、生後数日間から12ヶ月まで、1日当たり400IUのビタミンDを補給することが推奨されています。(※IUはビタミンの国際単位)
ビタミンD欠乏症は授乳中の女性に非常によくみられます。そして欠乏症はリスクの増加を含む、例えば産後鬱のような不健康な状態につながる可能性があります。このことからも、ビタミンDの補給は欠かせないほうがよいでしょう。
現在のビタミンDレベルに基づいた具体的な推奨用量については、医療従事者に相談してください。
要約:授乳中の母親には、マルチビタミン、ビタミンB12、オメガ3、およびビタミンDのサプリメントを摂取すると効果的な場合があります。
水分摂取量を増やす
授乳中はいつもよりお腹がすくだけでなく、喉が渇くこともあります。
赤ちゃんを抱っこするとオキシトシンの量が増えます。これで乳が流れ始めます。またのどの渇きを促進し、授乳中の水分補給を促します。
水分補給の必要性は、活動レベルや食事摂取量などの要因によって異なることに注意してください。授乳中に必要な水分量について決まったは量ありません。
非常に疲れていたり、母乳の量が減っているように感じたりする場合は、水分を多く取る必要があります。水を十分に飲んでいるかどうかを知る一番の方法は尿の色と臭いです。
濃い黄色で強いにおいがする場合は、脱水症状で水分を補給する必要があります。
要約:授乳中はオキシトシンが分泌され、喉の渇きを促します。この自然な生物学的プロセスにより、増加する必要水分量を満たすのに十分な水を飲むことができます。
授乳中に避けるべき飲食物
特定の食物に対するアレルギーがない限り、基本的には授乳中はどんな食物を食べても安全です。
食べ物やスパイス、飲み物の味によっては、母乳の味が変わることもありますが、これが赤ちゃんの授乳時間に影響したり、好き嫌いを引き起こすことはないとされています。
よくある誤解に、カリフラワーやキャベツのような 「ガスっぽい」 食べ物は、赤ちゃんにもガスがたまりやすいというものがあります。2017年のある研究によるとこれらの食品はガスを発生させるが、ガスを促進する化合物は母乳には移行しないと報告されています。
ほとんどの飲食物は授乳中でも安全ですが、制限したり避けたりすべきものもいくつかあります。何かが赤ちゃんに悪影響を与えているかもしれないと思ったら、医療機関に相談してください。
カフェイン
摂取源の約1%が母乳に移行し、赤ちゃんがカフェインを代謝するのに時間がかかるようです。コーヒーのようなカフェイン入りの飲料を飲むことが有害であることは示されていませんが、赤ちゃんの睡眠に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、授乳中の女性はコーヒーの摂取量を1日2~3杯に制限することが推奨されています。
アルコール
アルコールも母乳に移行します。濃度は母親の血液中に含まれる量に似ています。しかし、乳児のアルコール代謝率は成人の半分です。
1~2杯飲んだ後に授乳すると、赤ちゃんの母乳摂取量が最大23%減り、興奮と睡眠不足を引き起こすことがあります。
アルコール摂取は、赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、AAPは授乳中はアルコール摂取を制限すべきだと主張しています。
AAPによると、体重60kgの母親の場合、アルコールは体重1kg当たり0.5g以下で、これはリキュール約57g、ワイン約227g、ビール約57gに相当するということです。
牛乳
まれですが、牛乳アレルギーの赤ちゃんもいます。また、赤ちゃんに牛乳アレルギーがある場合は、すべての乳製品を食事から除外することが重要です。
母乳で育てられている乳児の最大1%は、母親の食事に含まれる牛乳タンパク質にアレルギーがあり、発疹、湿疹、下痢、血便、嘔吐、乳児疝痛(せんつう)を起こすことがあります。
心配な場合は、どのくらいの期間、乳製品を摂取しないようにするのが安全か、医療機関に相談しましょう
要約:授乳中の女性はカフェインとアルコールの摂取を制限することが推奨されています。ごく一部の乳児は、母親の食事に含まれる牛乳タンパク質に対してアレルギーを起こすことがあります。
授乳による体重減少
出産後すぐに体重を減らしたいと思うかもしれませんが、体重を減らすには時間がかかるため、焦らないことが重要です。
授乳中は多くのホルモンの変化が起こり、母乳を作るのに必要なカロリー量が増えると、授乳中に食欲が増します。カロリーを制限しすぎると、最初の数ヶ月間は特に母乳の量が減り、必要なエネルギーレベルが低下することがあります。
母乳だけで育てることを6ヶ月以上続けた場合に、体重減少効果があるといわれています。(授乳中に体重を減らすことは、誰にでもあてはまることではありません。)
健康的な食事と運動を組み合わせることで、1週間に約0.5kgを目安に減らしましょう。もともと栄養不足ではない場合、これが乳供給や乳組成に影響がでない目安です。
授乳中の全ての女性は、体重にかかわらず十分なカロリーを摂取すべきです。しかしもともと体重が軽いと、カロリー制限に敏感になる女性が多いです。
このため体重が軽い女性は、牛乳の供給量の減少を避けるために、より多くのカロリーを摂取することが不可欠です。
要するに、出産後の体重減少は短距離走ではなくマラソンだということを覚えておいてください。あなたと赤ちゃんの健康的な妊娠で、体重が何ヶ月もかけて増え、体重を減らすのに何ヶ月もかかることがありますが、それでよいのです。
妊娠中に体重を減らそうとするときに覚えておくべきことは、制限食は全体的な健康に良くなく、長期的な体重減少には効果がないということです。
栄養価の高い食事をとり、日常生活に運動を取り入れ、十分な睡眠をとることが健康的な減量を促す最善の方法です。
要約:授乳はエネルギー需要と食欲を増加させるため、体重減少が遅くなることがあります。授乳中に健康を維持するためには、十分なカロリーを摂取することが重要です。
まとめ
母乳育児は大変な仕事です。あなたと赤ちゃんの栄養と健康を保つために母体はより多くのカロリーと栄養素を必要とします。
カロリーや栄養価の高い食品を十分に摂取していないと、母乳の質に悪影響を及ぼす可能性があります。それはまたあなた自身の健康にも害になることがあります。
健康的で栄養価の高いさまざまな食品を摂取し、加工食品を制限することは、これまで以上に重要です。カフェインとアルコールの過剰摂取を避け、赤ちゃんの健康維持のために推奨摂取量を守ってください。
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