はじめに
ラクトバチルス菌は1種の細菌です。 このラクトバチルス菌には多くの異なる種類があります。 この細菌は、善玉菌とも呼ばれ、人の消化管、尿路、性器などに住み、特に人の体に害を及ぼしません。 その他にも、ラクトバチルス菌はヨーグルトなどの発酵食品や、サプリメントなどにも含まれています。
ラクトバチルス菌は、感染性の下痢や抗菌薬関連下痢などの症状を軽減するために、通常は経口で摂取されます。 ラクトバチルス菌は、過敏性症候群、赤ちゃんの夜泣き、炎症性腸疾患、大腸の炎症、胃痛、便秘、その他の疾患など、多くの消化器関連の問題に対して経口摂取されていますが、これらの効能に対する科学的なデータは多くはありません。
ラクトバチルス菌の働き
通常、多くの細菌や微生物が私たちの体には住んでいます。 ラクトバチルス菌の様な善玉菌は、食物の分解、栄養吸収、下痢などの有害な症状を起こす微生物の抑制などの効果を果たすと考えられています。
ラクトバチルス菌に期待されている効能
胃痛
ラクトバチルス菌を短期間摂取することで、小児の胃痛を軽減すると報告されています。また、初期の研究ではありますが、ラクトバチルス菌とビィフィドバクテリウムを短期間摂取したところ、女性の胃痛も軽減したとされています。
花粉症
20億コロニー・フォーミング・ユニット(CFU)のラクトバチルス菌を毎日5週間摂取したところ、通常の抗アレルギー薬であるロラタジンが無効だった芝生の花粉アレルギーがある被験者において、生活の質が18%程改善したとされています。通年性のアレルギーを持つ小児においても、10億コロニー・フォーミング・ユニット(CFU)のラクトバチルス菌を12週間摂取したところ、目の痒み症状などが改善されたとされています。しかし、妊娠中の女性においてのラクトバチルス菌の摂取には、乳児のアレルギー発症の抑制効果はなかったそうです。
下痢
抗菌薬を摂取中の人における、抗菌薬関連下痢に対する効能が期待されています。ラクトバチルス菌を含むプロバイオティックス摂取が、抗菌薬関連の下痢を持つ成人と小児において症状を改善したとされています。最もよく研究がされているラクトバチルス菌の種類においては、下痢発症の2日以内に内服を開始し、抗菌薬終了の3日後まで最低でもラクトバチルス菌を継続することで、下痢の可能性を60-70%程度減少させたとしています。
湿疹(アトピー性皮膚炎)
ほとんどの研究で、ラクトバチルス菌製品を摂取していた乳児や小児において、湿疹症状の改善が認められました。また、ある研究では、ラクトバチルス菌の摂取が、湿疹の発症予防にも役立ったとしています。妊娠中の母親が妊娠の最終月に、ラクトバチルス菌を含むプロバイオティクスを摂取開始すると、子供が湿疹を発症するリスクが軽減するとされています。しかし、全ての種類のラクトバチルス菌で同じ効果があるわけではない様です。
アレルギー傾向とアレルギー反応(アトピー)
研究では、特定のラクトバチルス菌を摂取することで、家族歴のある乳児において、喘息、鼻汁、湿疹などの発症が予防できたと報告しています。しかし、全ての種類のラクトバチルス菌に同様の効果があるわけではないことには注意が必要です。
膣内での細菌の過繁殖
ある研究によると、ラクトバチルス菌の座薬と経膣錠が細菌性膣症などの治療に効果的であるとされています。別の研究では、ヨーグルトの摂取、ラクトバチルス菌を含む膣錠の使用が、細菌性膣症の再発予防につながるとも報告されています。
抗癌剤による下痢
5-フルオロウラシルと呼ばれる化学療法薬(抗癌剤)は、重篤な下痢や消化器症状を起こします。ラクトバチルス菌の摂取で、大腸癌または直腸癌を持つ人において下痢や胃部不快感の軽減、入院期間の短縮などの効果が見られたとのデータがあります。
乳児の泣き(夜泣き)
ある研究では、乳児にラクトバチルス菌を投与したところ日中に泣く時間が短縮したと報告されています。一部の研究では、ラクトバチルス菌の方が、シメチコンと呼ばれる薬剤を使用するよりも効果的に赤ちゃんが泣く時間を短縮したとしています。しかし、ある大規模の研究では、ラクトバチルス菌の乳児の泣く時間への影響は確認できず、この大規模研究では、初期の研究で対象とされていた乳児より重度の夜泣きを持つ乳児が対象とされていた可能性が考えられています。
便秘
ラクトバチルス菌によるプロバイオティクスの摂取を4-8週間行ったところ、胃痛や胃部不快感、腹部膨満、残便感などの便秘症状を軽減したとされています。一部の人では、ラクトバチルス菌の摂取が排便回数を増やす効果も認められました。
糖尿病
ラクトバチルス菌を妊娠中期から摂取開始することで、過去に妊娠糖尿病のあった35歳以上の妊婦において、糖尿病の再発を予防したと報告されています。ラクトバチルス菌の摂取中に糖尿病を発症した人でも、比較的血糖の値がコントロールされていたとしています。その他にも、初期の研究ではありますが、妊娠していない成人の糖尿病患者さんにおいてもラクトバチルス菌の摂取が血糖を低下させたと言われています。
下痢
ラクトバチルス菌を、病院に入院している1-36ヶ月の乳児と小児に対して投与したところ、入院中に発生する下痢のリスクを軽減したと報告されています。また、ラクトバチルス菌は栄養失調の小児における様々な原因の下痢に対しても発症リスク軽減効果が示されています。しかし、ほとんどの研究では、すでに下痢症状がある小児に対するラクトバチルス菌の投与は、特に下痢の改善促進に繋がらなかったと報告しています。
胃潰瘍につながる消化管の感染症(ヘリコバクター・ピロリまたは、H. Pylori)
ある研究によると、ピロリ菌に対するクラリスロマイシン、アモキシシリン、プロトンポンプ・インヒビターの3剤療法と一緒にラクトバチルス菌を摂取することで、ヘリコバクター・ピロリによる胃潰瘍の治療を促す効果があると報告されています。 その研究によると、おおよそ7-11人のヘリコバクター・ピロリ感染の患者さんをラクトバチルス菌と3剤療法の混合療法で治療すると、従来の3剤療法のみで治療した場合より1人多くヘリコバクター・ピロリ感染から寛解状態に導くことができるとされています。しかし、ラクトバチルス菌のプロバイオティックスの摂取は、ラクトバチルス菌単剤で摂取した場合には効果はなく、そのほかの抗菌薬、3剤療法、ビスマスを加えた4剤療法などと併用することが必要です。また、ラクトバチルス菌の摂取が3剤療法に関連した副作用を軽減するのかについてもわかっていません。
高コレステロール
ラクトバチルス菌のプロバイオティックスを摂取することで、高コレステロール血症の既往の有無にかかわらず、総コレステロールを10mg/dl、LDL(悪玉)コレステロールを9mg/dl程度低下させることができるとされています。しかし、ラクトバチルス菌のプロバイオティックスは、HDL(善玉)コレステロールやトリグリセリドには影響しないと考えられています。
むくみ(炎症)と口の中の痛み(口腔の粘膜炎)
ある研究では、ラクトバチルス菌を含むトローチを放射線治療、化学療法の1日目から治療終了の1週間後まで摂取し続けると、重篤な口腔内疼痛を起こす患者さんの数が減るとされています。
潰瘍性大腸炎に対する手術後の合併症(人工肛門や回腸嚢の炎症)
ラクトバチルス菌を経口で摂取することで、人工肛門や回腸嚢の炎症などの、潰瘍性大腸炎の術後合併症を軽減できるとされています。ラクトバチルス菌、ビフィドバクテリウム、ストレプトコッカスなどを含むプロバイオティックスを1年間摂取したこところ、85%の人が寛解状態を保つことができたとされています。2つの異なる種類のラクトバチルス菌とビフィドバクテリウムを9ヶ月に渡って摂取したところ、人工肛門や回腸嚢の炎症の重症度を軽減させたとしています。
気道の感染症
ある研究では、ラクトバチルス菌のプロバイオティックスが乳児や小児の気道の感染に予防的に働いたと報告しています。ラクトバチルス菌を乳児と小児に与えることは、上気道の感染の可能性を減らすとされています。また、1-6歳の一時預かり施設に通う小児では、ラクトバチルス菌を含むミルクの摂取で、上気道炎を発症する頻度や、上気道炎の重症度が減少したとされています。しかし、全ての種類のラクトバチルス菌に同様の効果があるわけではない様です。また、成人でもラクトバチルス菌を含む発酵ミルクを摂取することが上気道炎の発症予防、また発症後の症状期間を短縮する可能性が示されています。
関節リウマチ
ある研究によると、ラクトバチルス菌を8週間に渡って摂取することで、関節リウマチのある女性で、関節の疼痛や腫れが軽減したとされています。
一部の炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎)
ラクトバチルス菌のプロバイオティックスは潰瘍性大腸炎のある人において、寛解期間を延長させると考えられています。ラクトバチルス菌、ビフィドバクテリウム、ストレプトコッカスなど、複数の種類を含むプロバイオティックスにおいて、豊富なデータがあります。研究では、これらのプロバイオティックス製品を摂取することで寛解状態に到る確率が、通常の潰瘍性大腸炎の治療薬を使用するよりも2倍ほどに上昇すると報告されています。 1種類のラクトバチルス菌を含む製品の摂取でも症状の改善効果は認められています。しかし、ラクトバチルス菌単体の摂取は、潰瘍性大腸炎の再発予防には繋がらなかったとされています。
ラクトバチルス菌の副作用と安全性
ラクトバチルス菌は経口で適切に摂取された場合、基本的には安全であると考えられています。 副作用は、消化管のガス、腹部膨満など、ごく軽度であると考えられています。
女性が膣の内側などにラクトバチルス菌を塗布する場合も、安全であると考えられています。
特に注意が必要なケースと警告
小児
ラクトバチルス菌は経口で適切に摂取されれば基本的に安全であると考えられます。
妊婦と授乳婦
ラクトバチルス菌は、経口で適切に摂取されれば、妊娠中や授乳中であっても安全であると考えられています。
免疫システムが弱っている方
サプリメントのラクトバチルス菌製剤は、生きたラクトバチルス菌を含んでおり、免疫システムが弱っている人が摂取すると過剰に増殖してしまうのではないかと言う懸念があります。 これは、HIV/エイズなど患者さんや、臓器移植後などで拒絶反応を防ぐ免疫抑制薬などを摂取している人に当てはまります。 ラクトバチルス菌は、ごく稀ですが、免疫システムが弱った人において有害な事象を引き起こします。 安全面を考慮すると、免疫システムが弱っている可能性がある場合には、ラクトバチルス菌の摂取を始める前にまず医療機関で医師などに相談をする方が良いでしょう。
短腸症候群
短腸症候群を持つ患者さんでは、そうでない人よりもラクトバチルス菌による感染症が起こりやすい可能性があります。もし、このような病気を持っている場合には、ラクトバチルス菌の摂取を始める前にまず医療機関で相談をしましょう。
潰瘍性大腸炎
入院を要するような重症の潰瘍性大腸炎を持つ患者さんでは、ラクトバチルス菌の摂取でラクトバチルス菌による感染症を起こす可能性があります。このように潰瘍性大腸炎がある場合には、ラクトバチルス菌の摂取前に医療機関で相談をしましょう。
心臓弁膜の障害
非常に稀ですが、ラクトバチルス菌は心臓内の心内膜、弁膜などに感染を起こすことがあります。この感染症は元々心臓の弁膜に障害がある患者さんが、歯科治療、侵襲的な胃・腸管への手技を受けた後に、ラクトバチルス菌を経口摂取すると起きる可能性が上がると考えられています。心臓弁膜に障害がある人では、歯科治療、内視鏡などの侵襲的な胃・腸管への手技を受ける前に、プロバイオティックスの摂取を中断した方が良いでしょう。
ラクトバチルス菌の相互作用
薬剤との軽度の相互作用の報告
併用に注意が必要なケース
一部の抗菌薬
抗菌薬は体の有害な細菌を減らすために使用される薬剤です。 しかし、一方で抗菌薬は体の有益な細菌までも減らしてしまいます。 ラクトバチルス菌は1種の有益な細菌です。 ラクトバチルス菌と一緒に抗菌薬を摂取すると、ラクトバチルス菌の効能が減弱するかもしれません。 この相互作用を避けるためには、ラクトバチルス菌は抗菌薬の摂取前、もしくは摂取後から2時間空けて摂取することが望ましいでしょう。
免疫抑制薬
ラクトバチルス菌は、生きた細菌や真菌を含んでいます。 免疫システムは、体内の細菌や真菌を制御して、感染症とならないようにしています。 免疫システムを弱める薬剤は、細菌や真菌などによって体調が悪化するリスクを上昇させます。 免疫システムを弱くする薬剤には、アザチオプリン(イムラン)、バシリキシマブ(ゼナパックス)、ムロモナブ-CD3(OKT3、オルソクロンOKT3)、ミコフェノレート(セルセプト)、タクロリムス(FK506、プログラフ)、シロリムス(ラパムン)、プレドニゾン(デルタゾン、オラゾン)、コルチコステロイド(グルココルチコイド)、その他の薬剤が含まれます。
ラクトバチルス菌の摂取用量
通常、ラクトバチルス菌製剤の強度は、1カプセルあたりに含まれている細菌数で表されます。 典型的には、10億-100億の細菌を1日3-4回に分けて摂取します。
最後に
また、alloehではサプリユーザーのクチコミから、「ラクトバチルス菌」サプリ・医薬品のランキングも作成しています。
ぜひ参考にしてください。
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