はじめに
チロシンは、注意力や集中力に関する効果を期待して使われることの多い成分です。
脳内化学物質を作り出し、神経細胞の伝達を助け、時には私たちの感情を調節することも可能であると考えられています。(参考)
しかし一方で、チロシンには副作用もあるとされています。
今回の記事では、効果や副作用など、チロシンについての知っておくべきことを伝えていきます。
◆チロシンの成分についてさらに知りたい方はこちらの
『【徹底解説】L-チロシン、効果・副作用を色々な文献で調べてみた』
の成分解説の記事も参考にしてみてください。
チロシンとは?
チロシンはアミノ酸の1種で、私たちの体内でフェニルアラニンという他のアミノ酸から生成されます。多くの食べ物に含まれていますが、特に最初にチロシンが発見されたチーズに多く含まれています。”チロス""はギリシャ語で”チーズ”という意味です。(参考)
また、チロシンは鶏肉や七面鳥、乳製品、高たんぱく質の食べ物にも含まれています。(参考)
チロシンはいくつかの重要な物質を生成する助けをしています。例えば、以下のような働きがあると考えられています。(参考)
- ドーパミン:ドーパミンは快の感情や、欲求を調節します。この重要な脳内物質は、記憶や身体機能のためにも重要です。(参考)
- アドレナリンとノルアドレナリン:これらのホルモンはストレスフルな状況に対して、”闘争か逃走”という反応をします。からだが受けた攻撃や傷害に対して”闘う”か”逃げる”かの準備をさせます。(参考)
- 甲状腺ホルモン:甲状腺ホルモンは甲状腺から作られ、早期の代謝に関与しています。(参考)
- メラニン:この色素は皮膚や髪、目の色に関与しています。褐色の肌色の人は明るい肌色の人よりもメラニンを多く持っています。(参考)
栄養補助食品としても摂取することが出来ます。チロシン単独もの、もしくは運動前のサプリメントのように、他の栄養剤とミックスされた状態のものもあります。
チロシンを補給的に摂取すると、神経伝達物質のドーパミンやアドレナリン、ノルアドレナリンの値が上昇すると考えられています。これらの神経伝達物質が増えることによって、記憶力やストレス下においてのパフォーマンスの改善が見込めるとされています。(参考)
💡 POINT
チロシンはフェニルアラニンから生成されるアミノ酸です。 チロシンを補給すると、私たちの感情やストレス反応に影響する重要な脳内伝達物質が増えます。
チロシンの効果
ストレス下における精神状態の改善
神経伝達物資が減ることによって私たちの思考力や記憶力、注意力や認知力に影響を与えます。(参考1、参考2)
齧歯(げっし)動物では、彼らは寒さ(ストレス環境要因)を感じると、神経伝達物質の減少によって記憶力が低下します。(参考1、参考2)
しかし、チロシンを与えられた齧歯動物は、神経伝達物質の減少が改善し記憶も復元されました。齧歯動物のデータを人間へ適応解釈する必要はありませんが、人間においても同様の結果が発見されています。
22人の女性を対象に、精神力が要求される状況下で行ったある実験では、偽薬を与えたグループと比較し、チロシンを与えたグループの実験中の作業記憶が著しく改善させました。(参考)
同様の研究では、22人の参加者に認知力の柔軟性を測るためのテストの前に、チロシンのサプリメントまたは、偽薬を与えました。
偽薬のグループと比べ、チロシンのグループでは、認知力の柔軟性の改善がみられました。(参考)
認知力の柔軟性とは、タスク(作業)または思考の切り替え能力があることです。タスクの切り替えが早ければ早いほど、認知力の柔軟性が優れているといえます。
また、チロシンの補充が睡眠障害の人へ効果を発揮することが発見されています。1回の使用で、夜間十分睡眠できない人に対して、使用しなかったときと比べ3時間も長く集中できる状態にしたのです。(参考)
さらに2つの調査で、チロシンを補給することが、ストレス下で精神力が要求される状況において、精神力の弱まりや認知力を短期間に改善できるということを結論付けました。
チロシンが認知力に対して有効に働くことがある一方、人間の身体パフォーマンス力を高めることに関しては確証はありません。(参考1、参考2、参考3)
最後に、チロシンがストレス要因がない状況下で精神面のパフォーマンスを改善することがある、ということはどの研究でも実証されていません。
言い換えると、チロシンは脳機能を高めるわけではないということです。
💡 POINT
研究では、ストレスフルな活動の前にチロシンを摂取すると、私たちの精神的な力を維持するために効果的に働く事が示されています。しかし、チロシンの摂取が記憶力の向上につながるという確証は得られていません。
フェニルケトン尿症への効果
フェニルケトン尿症(PKU)は、フェニルアラニン水酸化酵素を生成する遺伝子に欠陥があって起こるまれな病気です。(参考)
私たちの体は、この酵素を使ってフェニルアラニンをチロシンに変換し、神経伝達物質の生成に使用します。(参考)
しかし、この酵素がなければ、体内でフェニルアラニンが分解されず増殖してしまいます。
PKUの治療で大事なことは、フェニルアラニンを含む食べ物を制限することです。(参考)
チロシンはフェニルアラニンから生成されるため、PKUの人はチロシン不足に陥りやすく、問題行動を起こす可能性があるのです。(参考)
チロシンの補給は、いくつかの症状を緩和するのに効果的に活用することができますが、エビデンスが定まっていません。
ある調査では、研究者がチロシンの補給している人、またはフェニルアラニン制限食の代わりとして摂取している人の知能、成長、栄養状態、死亡率、生活の質を調べました。(参考)
その研究者たちは、47人が対象の2つの研究を分析しましたが、チロシン補給と偽薬を摂取した人たちの間に相違はありませんでした。56人が対象の3つの研究調査でも、チロシンの補給または偽薬を摂取した人において、測定された結果の間に大きな違いは発見できませんでした。(参考)
研究者たちは、チロシン補給がPKUの治療として効果的かどうかについては、推奨ハーブしないという結論を出しました。
💡 POINT
PKUはチロシン不足を招く深刻な状態です。チロシンの補給がその治療に用いられるか検討するには、より多くの研究が必要です。
鬱状態に関する効果
チロシンは、気分の落ち込み(鬱)を改善すると言われてきました。
鬱は脳内の神経伝達物質のバランスが不安定になったときになるものだと考えられています。抗鬱薬は一般的に神経伝達物質のバランスを再調整するために処方されます。(参考)
チロシンは神経伝達物質の生成を増やすことが出来るため、抗鬱薬として作用するということです。しかし、初期研究では、この主張を証明することはできていません。(参考)
ある研究では、65人の鬱症状がある人に100mg/kgのチロシンを与え、2.5mg/kgの標準的な抗鬱薬もしくは偽薬を4週間毎日内服してもらいました。
チロシンには抗鬱効果はみられませんでした。(参考)
鬱は、複雑で多様な障害です。このことが、チロシンのような補助食品を摂っても、鬱症状の改善に至らない理由かもしれません。
しかし、ドーパミン、アドレナリン、もしくはノルアドレナリン値が低い鬱状態の人にとって、 チロシン補給が効果的であることもあります。実際、ドーパミンの値が低い鬱の人々を対象としたある研究では、チロシンが臨床的に効果があると言及しています。(参考)
ドーパミン依存性の鬱の特徴として、無気力や意欲の減退がみられます。(参考)
より多くの研究が実施されるまでは、チロシンの補給による鬱症状の治療のエビデンスは十分ではありません(参考)。
💡 POINT
チロシンは神経伝達物を変換し、私たちの気分に影響します。 しかし、研究においてチロシンの補給が鬱症状を止めるという確証は得られていません。
チロシンの副作用について
チロシンは、米国食品医薬品局によると、”一般的に安全性がある”と認識されています。(参考)
1日、体重1kgあたり150mgまでを3カ月間までは安全な量とされています。つまり、体重が50kgの方であれば7500mgまでの摂取は安全な量ということです。(参考1、参考2、参考3)
チロシンはほとんどの人にとって安全ですが、常用薬との相互作用によっては副作用がでることもあります。
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOIs)
チラミンはアミノ酸の1種で、チロシンから生成され、血圧を調整する働きがあります。
主に食べ物の中に蓄積し、微生物の中の酵素によってチロシンとフェニルアラニンがチラミンへ変換されます。(参考)
チラミンは、チェダーチーズやブルーチーズのなどのチーズ、加工肉や燻製肉、大豆製品やビールに多く含まれています。(参考)
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOIs)として知られる抗うつ薬は、モノアミン酸化酵素を阻害し、体内の過剰なチラミンを分解します。(参考、参考2、参考3)
MAOIsとチラミンを多く含む食べ物を一緒に摂取すると、血圧が危険なレベルまで上昇することがあります。
しかし、チロシンの補給がチラミンを体内で蓄積させることは知られておらず、MAOIsを摂取している人は注意する必要があります。(参考1、参考2)
甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンはトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)があり、体内の代謝調節をしています。T3とT4の値は高すぎても低すぎてもよくありません。
チロシンを補給するとこのホルモンに影響を与える可能性があると言われています。(参考)
なぜなら、チロシンは甲状腺ホルモンにとって障壁となっているので、チロシンの補給によってホルモン値が高くなりすぎることがあるのです。そのため、甲状腺の薬を飲んでいる人や甲状腺機能亢進の人はチロシンの摂取には注意が必要です。
レボドパ
レボドパ(L-dopa)は、一般的にパーキンソン病に対して使用される薬です。(参考)
体内で、レボドパとチロシンは小腸で吸収される際に拮抗し、薬物の効果に影響します。(参考)
興味深いことに、チロシンは、高齢者の認知機能に関する諸症状を改善する可能性があるとして調べられています。(参考1、参考2)
💡 POINT
チロシンはほとんどの人にとって安全です。 しかし、薬を内服しているある一定の人には影響が出ることがあります。
チロシンの摂取方法
サプリメントでは、チロシンは遊離アミノ酸またはN-アセチル-チロシン(NALT)として摂ることが出来ます。NALTは遊離物よりも水に溶けやすいですが、体内では低い割合でチロシンへ変換されます。(参考1、参考2)
これが意味することは、チロシンと同じ効果を得るためにはより多量のNALTを摂取する必要があるということです。遊離アミノ酸のチロシンを摂るかどうかは好みによるでしょう。
チロシンは500-2,000mgの量を運動をする30-60分前に摂取するのが一般的です。しかし、運動のパフォーマンスにとって利益があるのかどうかはいまだ結論は出ていません。(参考、参考2)
身体的にストレス状況下にあるときや睡眠不足時に、体重1パウンド(0.453kg)あたり45㎎-68㎎(100-150㎎/㎏)摂取することは、精神的なパフォーマンスの維持に対して有効であるようです。体重68.2㎏であれば、7-10mgが摂取量です。
高容量の使用はお腹の不調をもたらすことがあるため、 ストレスイベントの30分から60分前に、 1回量を2回に分けて摂ります。
💡 POINT
遊離アミノ酸系のチロシンは最もベストな形のサプリメントです。 その1番の効果であるストレスの軽減に関しては、体重1パウンド(0.453kg)あたり、45㎎-68㎎(100-150㎎/㎏)をストレスイベントの60分前に摂った場合について調べられてきました。
まとめ
いかがだったでしょうか?今回はサプリメントに配合されることもあるチロシンについて解説を行いました。もし、チロシンの摂取を検討されている方がいれば、参考にしてみてください。
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