はじめに
黒コショウは、世界中で最も一般的に使用されているスパイスの一つです。
コショウのつるから採れる実を乾燥させ、削って作られます。辛味があり、少しスパイシーな味は、様々な料理に良くあいます。
しかし、黒コショウは、単に料理に欠かせないもの、というわけではありません。強力に身体によい植物成分が高濃度で含まれているため、“スパイスの王様”と称され、古代アーユールヴェーダにおいては、数千年にわたって使用されてきました(参考1, 参考2)。
この記事では、黒コショウが体に良いとされる化学的根拠を紹介します。
抗酸化物質に富む
フリーラジカルは、細胞に害を与える可能性のある不安定な分子です。運動をしたり、食べ物を消化するときなど、自然に作られるものもあります。
しかし、花粉やたばこの煙、日光にさらされると、フリーラジカルが過度に形成されることがあります(参考)。
フリーラジカルが過度に生成されると、健康に深刻な害をもたらすことがあります。例えば、炎症や早期老化、心臓病、数種の癌と関係しています(参考1, 参考2, 参考3)。
黒コショウは、ピペリンという植物成分に富んでいます。研究レベルでは、このピペリンには強い抗酸化作用があると言われています。
抗酸化物質が豊富な食事をとることで、フリーラジカルの悪影響を抑制したり、遅らせたりことができる、という結果も報告されています(参考1,参考2)。
ネズミなどの動物実験や試験管レベルの実験結果によると、挽いた黒コショウやピペリンのサプリメントでフリーラジカルの悪影響を軽減できる可能性がしめされました(参考)。
高脂肪のエサに黒コショウもしくは、高濃度の黒コショウエキスを加えてネズミに与えたところ、高脂肪のエサだけを与えたネズミと比較して、10週間後には、細胞内のフリーラジカルの損傷が劇的に少なかった、という研究結果もあります(参考)。
💡 POINT
黒コショウは強い抗酸化作用があるとされているピペリンを豊富に含んでいます。ピペリンは、細胞内のフリーラジカルへの悪影響を抑制すると言われています。
抗炎症作用
慢性炎症は、関節炎や、心臓病、糖尿病、癌など様々な病状の根本的な原因と言われています(参考1, 参考2)。
黒コショウの主な活性化合物であるピペリンは、効果的に炎症を抑えるということが多くの研究結果から示唆されています(参考)。
例えば、関節炎のあるネズミをピペリンで治療すると、関節の腫れが軽減し、血液の炎症反応も少なくなったという報告もあります(参考1, 参考2)。
また、他のネズミを用いた実験では、ピペリンが喘息や花粉症からくる軌道の炎症を抑制したという、結果も報告されています(参考1, 参考2)。
しかし、ヒトに対する黒コショウやピペリンの抗炎症効果は、まだ確認されていません。
💡 POINT
黒コショウは、活性化合物を含んでおり、動物においては、炎症を抑える効果が確認されています。しかし、それがヒトにも有効かどうかは、まだ不明です。
脳に関する効果
動物実験では、ピペリンが脳の機能を向上させる、ということがわかりました。
特に、アルツハイマー病やパーキンソン病といった退行性脳障害に効く可能性があるということが示されました。
アルツハイマー病のネズミにピペリンを与えたところ、与えなかったネズミに比べて、より効率よく迷路を繰り返し走ったということから、ピペリンは記憶力を向上させる、ということが分かりました。
ピペリンは、アルツハイマー病につながる有害なたんぱく質の凝集である、アミロイド斑の形成を抑制するということが、別のネズミの実験から判明しました。
しかし、こういった効果が動物以外、ヒトにもみられるかを確認する必要があります。
💡 POINT
動物実験では、黒コショウエキスは、退行性脳障害の症状を改善するという結果が得られましたが、その効果がヒトにみられるかどうかは、まだ確認されていません。
血糖値のコントロールを改善
ピペリンが血糖の代謝を高めるという研究結果があります(参考1, 参考2, 参考3)。
ある実験で、黒コショウエキスをネズミに与えたところ、与えなかったネズミに比べて血糖値の上昇が少なかったという結果が出ました(参考)。
さらに、肥満の人86名がピペリンなどの成分を含むサプリメントを8週間摂取したところ、インシュリン感度(インシインシュリンホルモンが血中のグルコースをどれだけうまく取り除くか)が劇的に改善されました(参考)。
しかし、この実験では、他の植物の有効成分も一緒に摂取されたため、ピペリンだけで同様の効果が得られるかどうかは不明です。
💡 POINT
黒コショウエキスは、血糖値をよりうまくコントロールするのに役立つと考えられますが、まだ研究が必要です。
コレステロール値を下げる
高コレステロールは、世界最多の死因となっている心臓病のリスクを高めています(参考1, 参考2)。
黒コショウエキスがコレステロール値を減少させる可能性があるとして、動物実験が行われました(参考1, 参考2, 参考3)。
ネズミに42日間高脂肪の食事に黒コショウエキスを加えて与えたところ、悪玉コレステロール(LDL)を含め、血中コレステロール値が下がりました。
対照グループのネズミにはその効果は見られませんでした(参考)。
さらに、黒コショウやピペリンは、ターメリックや紅色酵母米のように、コレステロールを低下させることができる栄養補助食品の吸収を良くすると考えられています(参考1, 参考2)。
例えば、黒コショウは、ターメリックの有効成分、クルクミンの吸収を2,000パーセントも良くする、という研究結果があります(参考)。
しかし、黒コショウがコレステロール値を劇的に低下させる効果がヒトにも当てはまるかどうかは、まだ研究が必要です。
💡 POINT
ネズミの実験では、黒コショウはコレステロール値を減少させる効果が認められたため、コレステロールを低下させるサプリメントの吸収も良くする、と考えられています。
抗癌作用
研究者達は、黒コショウに含まれている有効成分、ピペリンは、抗癌作用が期待できると想定しています(参考1, 参考2)。
人体実験は行われていないものの、研究レベルでは、ピペリンは、乳癌や前立腺癌、大腸癌などの進行を遅らせたり、癌細胞の死滅を促進するという結果が出ています(参考1, 参考2, 参考3, 参考4)。
また、様々なスパイスから採った55種類の成分を調べたところ、非常に強い悪性のトリプルネガティブ乳がんに対する従来の治療効果を最も高くしたのが、黒コショウからとれるピペリンであった、という試験結果も報告されています(参考)。
さらに、実験レベルではあるものの、ピペリンは、癌細胞が複数の薬に対して発揮する耐性を無効にする効果があるという、有望な結果も出ています。癌細胞は、複数の薬に対して耐性を発揮するため、化学療法の効果が阻害されるのです(参考1, 参考2)。
こういった結果は、非常に期待できるものですが、黒コショウやピペリンの抗癌効果について理解するには、さらに研究が必要です。
💡 POINT
黒コショウは、癌細胞の増殖を鈍化させ、死滅させるのに役立つ有効成分を含んでいます。しかし、この効果がヒトに有効かどうかは、まだわかっていません。
その他のメリット
初期段階の研究によると、黒コショウは、他にも多くの点で健康に良いとされています。
栄養素の吸収を促進
黒コショウは、カルシウムやセレンといった必要不可欠な栄養素に加えて、緑茶やターメリックに含まれる健康に良い成分の吸収も高めます(参考1, 参考2)。
お腹の健康を促進
お腹の中の細菌は、免疫機能や情緒、持病などと関連しています。初期段階の研究によると、黒コショウは、お腹の中でよい細菌を増やすということがわかりました(参考1, 参考2)。
鎮痛作用
ヒトでの研究はまだ行われていませんが、ネズミの実験によると、黒コショウに含まれるピペリンは、天然の鎮痛剤になる可能性があるということがわかりました(参考1, 参考2)。
食欲を抑える
16名の成人を対象とした小規模な研究で、被験者は、味のついた水よりも黒コショウベースの飲み物を飲んだほうが食欲が減ったと答えました。しかし、他の研究では、同様の効果は見られませんでした(参考1, 参考2)。
💡 POINT
黒コショウは、必要不可欠な栄養素や体に良い植物成分の吸収を促します。初期段階の研究では、お腹の健康を促進し、鎮痛作用を示し、食欲を減らすということが報告されました。
様々な用途に使用できるスパイス
黒コショウは、世界中で料理には欠かせないものです。微妙な辛さと力強い味で、様々な用途に使用され、ほとんどの料理の味を良くします。
挽いた黒コショウは、野菜料理やパスタ、肉、魚、鶏肉などにあう風味の良い香辛料です。
ターメリックやカルダモン、クミン、ニンニク、レモンの皮など、他の健康に良い香辛料とも良く合います。さらに味にアクセントをつけたり、少しカリカリ感を楽しみたいときは、豆腐や魚、鳥肉などのたんぱく質を粗びきのコショウやその他の調味料で味付けしてください。
最後に
黒コショウはコレステロール値を改善し、血糖値のコントロール、また脳やお腹の健康にも役立つという研究結果が報告されています。様々な効果に関して期待できる結果は得られているものの、黒コショウやそのエキスが人体にどのような利点があるのかはまだ解明されていません。
ですが、黒コショウの深い味わいは、ほとんどどんな料理にも合うため、様々な料理に味を添える黒コショウをいつもの料理にとり入れる価値は十分にあります。
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