はじめに
体重減量の促進効果を謳っている商品は数多くありますが、その中でも有名なものの一つに、ラズベリーケトンが含まれるものが挙げられます。
ラズベリーケトンは、細胞内の脂肪分解を効率化して、体の脂肪燃焼を促進すると考えられています。 また、代謝を調整するホルモンの1種である、体内のアディポネクチンの量を増量させるとも言われています。
この記事では、ラズベリーケトンに期待される効能の背景にある研究データなどについて取り上げ、その効果を検証していきます。
ラズベリーケトンとは?
ラズベリーケトンとは、ラズベリーの特徴的な風味の原因ともなる物質です。ラズベリーケトンは、ブラックベリーやクランベリー、キウイなど、ラズベリー以外のフルーツやベリーでは、ごく少量しか含まれていません。
これまでは、ソフトドリンクやアイスクリーム、その他の加工食品の風味づけなどによく使用されてきました。そして、近年になって、その体重減量の効能の可能性に注目が集まるようになりました。
ラズベリーケトンには「ラズベリー」という言葉がついていますが、サプリメントなどに配合される場合には、実際のラズベリーから抽出される訳ではありません。ラズベリーからラズベリーケトンを抽出するためには、膨大な量のラズベリーが必要となるので、非常に高価になってしまいます。実際、1kgのラズベリーの実には、たった1-4mgのラズベリーケトンしか含まれていません。
そのため、サプリメントなどに含まれるラズベリーケトンは、化学合成で作られたもので、天然のラズベリーケトンではありません。(参考1, 参考2, 参考3)
この製品のもう一つの注目点は、体内の脂肪燃焼を促して血中のケトン上昇が見られる低炭水化物食と関連がある「ケトン」の部分でしょう。しかし、ラズベリーケトンは低炭水化物食とは何の関連もなく、特に似たような効能なども期待できないことには注意が必要です。
💡 POINT
ラズベリーケトンは、ラズベリーの特徴的な香りや風味の元となる物質です。 化学合成されたラズベリーケトンが、美容品、加工食品、サプリメントなどに使用されています。
ラズベリーケトンの効果
ケトンの分子構造は、唐辛子に含まれるカプサイシンや、興奮作用のあるシネフリンなどと非常によく似ています。
研究によると、これらの分子は代謝を促進すると考えられています。 このため、研究者の間ではラズベリーケトンにも、同様の効能が期待できるのではないかと考えられています。(参考1, 参考2)
試験管内の実験による研究で、マウスの脂肪細胞に対するラズベリーケトンの働きを調べた研究があります。ここでは、脂肪分解の促進の可能性が示されました。これは、脂肪燃焼促進作用のあるホルモンである、ノルエピネフリンに対する感受性を高めることによるものであると考えられています。(参考)
また、ホルモンの一種であるアディポネクチンの放出も関連していると考えられています。脂肪細胞から放出されるアディポネクチンは、代謝や血糖をコントロールする効果が期待されています。正常域の体重の人々では、過体重の人よりも血中のアディポネクチンが多いことが知られています。 体重が減量する時に、このホルモンは増加すると考えられています。(参考1, 参考2)
ある研究によると、血中のアディポネクチンが低値の人では、肥満、2型糖尿病、脂肪肝、心疾患などのリスクが上昇する可能性が示されています。(参考1, 参考2)
このため、血中のアディポネクチン量を増加させることが、体重の減量や、その他の疾患リスクの軽減につながると考えられています。
しかし、ラズベリーケトンにはマウスから分離された脂肪細胞内のアディポネクチンを上昇させる効果はあるものの、必ずしも生物の体内でも同様の作用が起きることの証明にはなりません。
ラズベリーケトンに頼らなくても、体内のアディポネクチンを増加させる自然な手段があることも留意が必要です。例えば、運動をすることは体内のアディポネクチンを260%増加させるとされています。 また、コーヒーの摂取もアディポネクチンの増加に関連しています。(参考1, 参考2, 参考3)
ラズベリーケトンの効果に関する注意点
ラズベリーケトンのサプリメントは、マウスやラットを使用した研究では期待の持てる結果を示しています。ただし、その効果の程度には注意が必要です。
ある研究では、ラズベリーケトンを高脂質食を与えられているマウスに投与しました。ラズベリーケトンを摂取していたグループのマウスでは、研究の終了時に体重が50gとなっていたのに対して、ラズベリーケトンを摂取していなかったマウスは研究終了時に、体重が10%も重い55グラムになっていました。(参考)
ラズベリーケトンを与えられていたマウスでも、体重増加が比較的少なかっただけで、体重減少は認められなかったことは重要です。
また別な研究でも、40匹のラットを対象にラズベリーケトンを投与が、血中のアディポネクチンレベルを上昇させ、脂肪肝に抑制的に働いたと報告しています。(参考)
しかし、この研究で使われたラズベリーケトンの量は、非常に高用量であることは注意が必要でしょう。
この研究で用いられたのと同じ用量を使おうとすると、推奨されている用量の100倍ものラズベリーケトンを摂取する必要があります。 これほどの高用量のラズベリーケトン摂取は決して推奨されません。
ラズベリーケトンの人体への効果
ラズベリーケトンの、人体に対する明確な効能を調べた研究はまだありません。
一番近い研究では、カフェイン、ラズベリーケトン、ガーリック、カプサイシン、生姜、シネフリンの混合物の人に対する効能を調べたものがあります。この8週間にわたる研究では、被験者はカロリー制限と運動療法を行いました。 サプリメントを摂取していた人たちで体脂肪が7.8%低下したのに対して、サプリメントを摂取していなかった群では体脂肪率の減少は2.8%に止まりました。(参考)
しかし、ラズベリーケトンは、これらの体重減少効果には関係がないかもしれません。 カフェインやその他の成分が、体重減少効果の原因であった可能性が考えられているためです。
ラズベリーケトンの体重減量効果に対する効能を理解するためには、人を対象とした包括的な研究がさらに必要であると考えられています。
その他の効果
ある研究では、ラズベリーケトンと美容的な効能の関連が報告されています。
クリームなどとして局所に塗布された場合、脱毛のある人においてラズベリーケトンは発毛促進効果を示したとされています。 また、ラズベリーケトンは、健康な女性において皮膚のしなやかさなどの改善効果もあったとされています。(参考)
しかし、この研究は小規模で、研究自体にいくつかの問題点も指摘されています。 ラズベリーケトンと美容的効能の確定的な関連を示すためには、今後も追加での研究が必要でしょう。(参考)
💡 POINT
ある小規模の研究では、ラズベリーケトンは局所に塗布された場合、毛髪の成長促進効果や、皮膚のしなやかさ改善などの効果があると報告しています。
ラズベリーケトンの副作用と摂取量
ラズベリーケトンの副作用などについては、人体への研究が不足していることからも、分かっていないことが多いとされています。
例えば、米国食品医薬品局では「一般的には安全である」と認定されています。
一部では、イライラ、頻脈、血圧上昇などが起きる可能性が指摘されていますが、これらの副作用を示すような研究データは今のところありません。
人を対象とした研究が不足しているので、科学データに基づいた推奨摂取量は今のところ明確になっていないとされています。
まとめ
ラズベリーケトンは、極端に多い量を投与された動物を対象にした研究ではいくらか効果が認められましたが、この使用量は人に対して推奨される通常の使用量とは全く異なります。体重減量を目指すならば、摂取するタンパクを増やして炭水化物を減らすなど、他の方法を試みた方が良い可能性が高いです。
さらに、ラズベリーケトンの使用よりも、生活習慣の見直しの方が体重減量についてはより大きな影響があるとも考えられるでしょう。
もしラズベリーケトンの摂取を検討される場合には、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
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