はじめに
チェストツリーとはドイツを中心にヨーロッパで広く使用されているハーブであり、様々な病気の治療に利用されるサプリメントとしても役立っています。和名はセイヨウニンジンボクであり、月経前症候群や更年期障害などの症状によく使用されています。
また、虫刺されや特定の種類のがん予防などその他にも様々な健康効果があると言われています。ただし、全ての効果に科学的根拠があるわけではありません。
ここでは、セイヨウニンジンボクの科学的に証明されている効果とそうでない効果について紹介しましょう。
セイヨウニンジンボクとは?
セイヨウニンジンボクはクマツヅラ科植物の中でも最大の属で、世界中に約250種類が存在します。(参考) そして、セイヨウニンジンボクを使用したサプリとしてバイテックスというものが多く利用されています
セイヨウニンジンボクの果実はチェストベリー、あるいは「僧侶のコショウ」の異名として知られています。この名前の由来は、中世の修道僧が性欲減退にチェストベリーを使ったことから来ているという説があります。(参考)
セイヨウニンジンボクの果実はコショウの実ほどの大きさ(5~6mm)で、この果実と他の部分がハーブ療法として様々な病気の治療に使用されています。
セイヨウニンジンボクが使用される主な症状には
- 月経前症候群(PMS)
- 生理不順
- 更年期障害
- 不妊症
- 女性生殖器系の症状
- 授乳困難
- ニキビ
などが挙げられます。
セイヨウニンジンボクは古代ギリシャから主に女性生殖器系の治療として、トルコでは消化薬や抗真菌薬、そして抗不安薬として、何千年も前から利用されています。(参考1) (参考2)
要約
セイヨウニンジンボクは様々な病気のハーブ療法に利用される人気の植物です。月経前症候群(PMS)更年期障害、そして不妊症の改善によく利用されます。
女性生殖器系の症状の緩和
セイヨウニンジンボクは、女性が悩まされる生殖器系の症状の緩和によく効くと言われています。
月経前症候群(PMS)の症状緩和
セイヨウニンジンボクの最も知られている効果の1つに月経前症候群(PMS)の症状緩和が挙げられます。セイヨウニンジンボクの研究は数多くあり便秘やイライラ、憂鬱感、偏頭痛、乳房の痛みや張りといったPMSの症状の改善に効果があることが分かっています。また、セイヨウニンジンボクを配合したサプリであるバイテックスには乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の上昇を抑える効果もあり、この効果がエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンのバランスを整え、PMSの様々な症状の緩和に役立っていると考えられています。(参考)
別の研究では、PMSの症状に悩まされる女性が3ヶ月間バイテックスを飲み続けると、93%の女性に鬱病、不安神経症、そして過食といったPMSの症状が緩和されたとの結果が出ています。しかし、この研究では、偽薬を飲んだのに症状の改善がみれるプラシーボ効果と、バイテックスを実際に飲んで効果が表れた人の割合を比べる対照実験は行われていません。(参考)
その他に、PMSの症状を抱える女性に、毎日20mgのセイヨウニンジンボクか偽薬を3ヶ月飲んでもらう、より規模の小さい2つの実験があります。この実験では、バイテックスを飲んだ女性はイライラ、急激な気分変動、頭痛、そして乳房の張りなどの症状改善が、偽薬を飲んだ女性に比べて2倍多かったという結果が出ています。(参考1) (参考2)
また、セイヨウニンジンボクは、月経によって引き起こされる乳房の痛みの軽減にも効果があると考えられています。この研究では、セイヨウニンジンボクは普通薬による治療と同じ効果が期待できるうえに、副作用の発生率は普通薬に比べて遥かに低いことも分かっています。(参考1) (参考2)
しかし、ある2件の再調査ではバイテックスはPMSの症状緩和に役立つものの、その効果については過剰に評価されている可能性があると発表されています。(参考1) (参考2)結論を出す前に、より信頼のできる規模の大きな研究が必要と言えるでしょう。
更年期障害の緩和
ホルモンのバランスを整えてくれるセイヨウニンジンボクは、更年期障害の様々な症状の緩和にも役立つと言われています。
ある研究では、更年期障害に悩まされる女性23人にバイテックス油を投与すると、気分の落ち込みや睡眠障害などの更年期障害が原因の症状に改善が見られ、中には月経が再び始まった女性もいたと報告されています。また追跡研究では、新たに閉経前と閉経後の女性52人にバイテックスクリームを与えたところ、33%の参加者に大幅な改善、そして36%の女性には寝汗やホットフラッシュ(上半身のほてりや発汗の症状)などの症状に緩やかな改善がみられたと発表されています。(参考)
しかし、全ての研究で良い結果ばかりが出た訳ではありません。大規模二重盲検ランダム化比較試験による最新の試験結果では、偽薬(プラセボ)を飲むグループとバイテックスとセイヨウオトギリソウを混ぜた錠剤を飲むグループに分け毎日投与したところ、16週間後にはホットフラッシュ、気持ちの落ち込み、そして他の更年期障害の症状に対する効果は、両グループ共、大半が同じ程度であったと発表されています。(参考)
良い効果ばかりを挙げている調査の多くは、セイヨウニンジンボクと他のハーブを混ぜたものを女性に投与しています。それをセイヨウニンジンボクの効果だと判断するのは難しいでしょう。(参考)
生殖能力の強化
バイテックスには、女性の生殖能力を高める働きがあると考えられています。これは、バイテックスがプロラクチンレベルに影響を与える可能性があるためです。(参考)黄体期欠損や月経周期の後半が短いといった症状を抱える女性は、プロラクチン濃度が異常に高く、これが妊娠しにくい体質を作りあげていると考えられています。
ここで3つの研究を紹介しましょう。
研究1
プロラクチン濃度が非常に高い女性40人に40㎎のバイテックスか調合薬を投与したところ、バイテックスにも調合薬と同じくプロラクチン濃度を下げる効果があったことが分かっています。(参考)
研究2
黄体期欠損を患う52人の女性に20mgのバイテックスを投与すると、プロラクチン値が低下すると同時に、月経期が長くなりました。しかし、偽薬を摂った女性には全く効果が出なかったと報告されています。(参考)
研究3
過去6ヶ月から36ヶ月の間に妊娠できなかった93人の女性にバイテックスか偽薬を投与した研究があります。投与から3ヶ月後、バイテックスを飲んだ女性はホルモンバランスが改善され、その内の26%は妊娠。これに対し、偽薬を飲んだ女性は10%が妊娠したとの結果が出ています。(参考)
ここで注意すべき点は、サプリメントではバイテックスと他の成分を混合しているため、バイテックスだけの効果と見なすのは難しいことです。
その他にも、生理不順に悩む女性がバイテックスを飲んだ場合、偽薬を飲んだ女性よりも月経周期がより改善したという3つの報告があります。(参考1) (参考2)(参考3)妊娠しづらい原因には生理不順も考えられ、月経周期が正常化すれば妊娠しやすい体質になると言えます。
要約
様々な研究結果が出ているものの、セイヨウニンジンボクには、PMSや更年期障害の症状を和らげる効果があると考えらています。また、特にプロラクチンの値を下げ、月経周期を安定させる作用があり、この作用が生殖能力を高めるとも言われています。
虫刺され予防
セイヨウニンジンボクには、虫刺され予防にも効果があると言われています。
ある研究では、バイテックスの種から抽出した成分には蚊やハエ、ダニ、ノミを約6時間追い払う効果があると報告されています。(参考) また他の研究でも、バイテックスと他のハーブ抽出成分を含んだスプレーには、少なくとも7時間はアタマジラミを寄せ付けない効果があると発表されています。(参考)
また更なる研究では、バイテックスはシラミの幼虫に対して殺虫効果があると同時に、繁殖も妨げることが分かっています。(参考1) (参考2)
要約
セイヨウニンジンボクは、虫よけ予防にも効果があると言われています。特に蚊、ハエ、ダニ、ノミには効果的です。
他の有益な作用
セイヨウニンジンボクは、その他にも有益な作用があります。
頭痛の予防
ある研究では、頭痛持ちの女性が毎日バイテックスを3ヶ月飲んだところ、66%が月経周期に起こる頭痛が和らいだと報告しています。(参考) しかし、この研究では対照研究が行われておらず、バイテックスの有効性を確実に証明している訳ではありません。
抗菌と抗真菌効果
試験管内研究では、バイテックスから抽出されたエッセンシャルオイルには、ブドウ球菌やサルモネラ菌などの有害な菌類や細菌を防ぐ働きがあるという結果が出ています。(参考1)(参考2) しかし、ここで注意しなければいけないのは、エッセンシャルオイルは飲むことができないと同時に、バイテックスのサプリメントには感染症の予防効果はないと考えられています。
抗炎症作用
バイテックスに含まれる化合物には抗炎症作用があると、試験管内研究と動物実験で分かっています。しかし、この効果はアスピリンほど強くないことが分かっています。(参考1)(参考2)
骨修復
ある研究では、骨折した女性にバイテックスとマグネシウムの配合剤を投与したところ、偽薬を投与した女性よりも骨の修復度がわずかに上がったと報告されています。(参考)
てんかんの予防
動物実験では、バイテックスにはてんかん性発作を防ぐ効果があると報告されています。(参考1)(参考2)
しかし、上記の効果をサポートする研究は限られており、結論を出すために、より信頼のできる規模の大きな研究が必要と言えるでしょう。
要約
バイテックスは数多くの効果をもたらすと考えられていますが、この効用を裏付ける根拠はまだ見つかっておらず、更なる実験が必要だと言えます。
効き目のない症状
バイテックスは様々な病気の治療に長年使用されています。しかし、バイテックスが治療の対象とされる多くの症状には、未だに科学的に証明されていないものがあります。
母乳量の増加
古い調査では、バイテックスには母乳量を増やす効果があるとしていますが、現在ではそのような根拠は乏しく、更なる研究が必要です。(参考)
痛みの緩和
バイテックスと痛みの緩和に関する研究はネズミを使用した動物実験だけで、臨床実験はまだ行われていません。(参考)
子宮内膜症の治療
バイテックスにはホルモンのバランスを正常化する作用があるとされ、理論的には子宮内膜症や婦人科疾患の症状を軽減すると思われがちですが、これを実証した実験はまだありません。
脱毛予防
ホルモンバランスを整える作用のあるバイテックスは、男性の脱毛を防ぐとも言われることがあります。しかし、この作用を証明する研究は未だに発表されていません。
ニキビ治療
ニキビの治療には、バイテックスの方が従来の治療法よりもよりも効き目が早いと言われますが、これを証明した3つの研究は数十年前の物であり、最新の研究ではこの効果は証明されていません。(参考)
要約
セイヨウニンジンボクは様々な症状の代替医療として使用されていますが、一般的に信じられている効果性の多くについては未だに科学的に証明されていません。
起こりうる副作用
セイヨウニンジンボクは一般的に安全だと言われています。30~40㎎のドライフルーツエキス、3~6gのドライハーブ、または1gのドライフルーツを毎日摂っても安全だとされています。
報告されている軽度の副作用は以下の症状が挙げられています。
- 吐き気
- 胃のムカつき
- 軽度の皮膚発疹
- ニキビの増加
- 頭痛
- 月経出血過多
しかし、胎児や赤ちゃんに対する影響はまだよく分かっておらず、妊婦と授乳中の女性はバイテックスの使用を避けた方が良いでしょう。
また、バイテックスと相互作用(飲み合わせが悪いもの)があると考えられている薬剤には
- 抗精神病薬
- 経口避妊薬
- ホルモン補充療法
が挙げられ、これらの薬剤を摂取している人は、バイテックスを使用する前に医師に相談することをお勧めします。
要約
セイヨウニンジンボクには、回復可能な軽度の副作用がありますが、ほとんどの人には安全であると考えられています。しかし妊婦や授乳中の女性、そして特定の種類の薬を服用している人は控えた方が良いでしょう。
この記事のまとめ
セイヨウニンジンボク、あるいはチェストベリーには、生殖能力の向上、PMSや更年期障害の症状緩和、そして虫よけ予防に効果があると言われています。しかし、その他の効果については、今のところ科学的証明はされていません。
胃の不快感や軽度の副作用がおこる可能性もありますが、ほとんどの人にはセイヨウニンジンボクの使用は安全であると考えられています。
特に妊婦、授乳中の女性、そして特定の種類の薬を服用している方は、セイヨウニンジンボクを試す前に、医師に相談することをお勧めします。
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